ノーマンズランド 感想

やっと感想書きます(汗)この舞台はとても重たいけど、本当に素晴らしい舞台でした!でもいつものように、「感動した」とか「泣けた」とかそういう感想じゃない気がして、文章に出来るかちょっと不安です(苦笑)


まずはセット。
劇場内に入った時に、とても不思議な感覚がありました。戦争が舞台なのに、とても長閑な田舎の一角なんじゃないのかな?と想像したくなる、地面があって、梯子で上がるとそこには草が生い茂っていて・・・。いかにも戦争してますって風景はほとんどなく。でも無造作に置かれ木箱に銃が立てかけてあったり、、救急セットがはいっているのか、白十字の模様が描かれていたり。映画の予備知識もない私にとっては、このセットから舞台の内容が全く想像出来ませんでした。


舞台の造りとしては、見切り席がないように、上手と下手が舞台に対して半円状になっていて、1階席も両端は舞台に沿うように少し内向きに変えてありました。
ちなみに私の今回の席は2階席の上手側一番後ろでしたが、1回しか観劇出来ない私にとって、全体を見ることが出来る最良の席だったんじゃないかな〜と思いましたvv


この舞台は始めから坂本君としんぺーさんの客席登場なので、ロビーにいるお客さんを出来るだけ入れる方針なのか、開演時間が少し押しましたね。
ずっと洋楽が流れる中、突然舞台上と最前列の足元からスモークがたかれました。特に左寄りに流れるので下手のお客さんは辛そうでしたが、1階席の足元は全てスモークに覆われるという、不思議な光景。洋楽が鳴り止んだと思うと舞台が始まりました。1階席の真ん中の通路に銃を構えたチキとツエラが登場します。舞台は夜の戦場という事で照明は暗く落として、青いライトに反射するスモークが夜の静けさと、その中を歩く兵士が歩く事によって、緊張感が漂います。会場全体が戦場にいる臨場感みたいなのが凄く感じます。


そこへ敵の攻撃なのか、味方がしかけた攻撃に巻き込まれたのか、大きな爆撃音が鳴り響いて辺りが完全に暗闇になります。この爆音が凄く大きいし、暗闇で怖かったんです。『殺人者』のあの暗闇とは正反対な感じです。あの時は静寂の中の恐怖でしたが、今回のは状況の掴めない暗闇の中で耳を塞いでも鳴り止まない爆音に見ている側の恐怖心が大きくなってる、そんな感じ。
次の瞬間舞台に照明が入ると、あんなに炊かれたスモークが一切なくなって、始めに見た舞台のセットにチキとツエラが爆風に飛ばされて中間地帯に飛ばされ、舞台は進行します。

チキが見回りしている間に、ニノが登場し、ツエラを死体だと思って、彼の下に地雷を植えます。そこから彼ら3人の会話が始まります。始めはチキが優勢に立ち、ニノを使って味方と敵に救出を試みますが、あえなく爆撃にあい、結局3人は奇妙なやり取りを繰り返します。


ここで3人は共通にローリー・ストーンズが好きだという事が発覚します。3人でアカペラで歌いながら楽しく会話をします。この場面の坂本さんはサスガ!でもいつものミュージカルでの歌い方じゃないから余計にvvニノは歌が苦手なのか、ちょっとはずした風になって「中途半端にやるなよ」とチキに突っ込まれるのも笑い所。この舞台が面白くもあり、難しいなと思うのは、共通の好みや、ツエラの人格変貌に巻き込まれ、あたふたするチキとツエラ。でも次の瞬間は互いの攻撃に対して激しく罵り合う。戦争の無い国に生まれた自分には、なかなか理解が出来ないな。と思ってみたり。


途中動けなくなったツエラが「足が痒い・・・掻いてくれ」とチキとニノに足の裏を掻かせます。ニノはゲイという設定なので、いちいちチキがそれをネタにからかう訳ですが、多分ここはアソリブになっているらしく、ニノ役の内田さんがこらえられなくて、小さな声で反抗するものだから聞こえないの(笑)こんな場面のように要所要所、ツエラが動けない事を理由に、2人に無理を言ってみたりと、しんぺーさんがとても上手で◎彼が話すだけで、会場の空気が和んで笑いを誘うんですよね。そもそもツエラの体の下には地雷が埋めてあるのに、見ている側はどこか笑ってしまうのが不思議です。


ところで、私がこの舞台で一番最初に感動してしまったのが、ツエラを中心に火の付いた1本のタバコを3人で吸うところという、ほぼ冒頭に近いくらいの前半に泣けてしまいました(笑)係長にも「早いよ(笑)」なんて笑われてしまったんですが、それまで罵り合っていた敵同士がたった1本のたばこで空気が繋がる感じが嬉しいというか、切ないというか。。きっと本当は戦いたくないんだろうな〜とか思うと泣けてきました

そんな彼らには奇遇な事実が沢山出てきて、チキの恋人がセルビア人だったとか、自分が応援していたサッカーチームの選手が敵国の人間だったけど、いい選手だった。とか・・・。考えてみれば、太平洋戦争などのように海を越える訳ではないんですよね。だからこそ、共有出来ていた部分も多い訳で。。
もしかしたら、この中間地帯の中で彼らは分かり合えるのかも・・・と安易な気持ちが砕かれたのは後半戦。浅野温子さん扮するジェーンが登場し、あの浅野温子さんの独特のお芝居でまた笑いが起こり、でもこの少し緩んだ空気が一片します。


地雷撤去する為にジェーンはチキとニノを連れて行こうとしますが、ツエラを1人に出来ないチキはここに残ると言います。もちろん敵の身柄を手放したくないという事でニノも残るように言いますが、ニノはジェーンと行きたいと意見が食い違います。そこでチキはまたニノを打ちます。
これはとても衝撃的でした。さらに打たれたニノは先程までの感情が一切なく、ただ「必ずお前を殺す」それだけをチキに向かって呟き続け、怯えたようにうずくまります。明らかに冒頭から今しがたまでのニノとは全く違って、深い復讐心のみの感情だけになったのが、とても辛かった。


ここでジェーンは一度国連軍に戻り、地雷の撤去の申請をしに舞台を去ります。
また中間地帯に取り残された3人は先程までとは違い、ニノはただ怯えてうずくまります。それをよそにチキはツエラと元のボスニアについて語ります。


「この戦争が終わったら、大地をただ耕したい」
「俺は全ての戦争にNOと言いたい」


だったかな?
とても穏やかな、力強いチキの言葉でした。多分家族・そこに住んでいた友人、知人、全てをセルビア兵に殺されてしまって復讐を誓ったチキ。でも本当の彼は母国の美しいボスニアを愛したただの青年だったんだな〜と思うとなんとも言えない気持ちになりました。それは多分ツエラもニノも同じ。もし平和だったら、ローリングストーンズのライブとかで一緒になることもあったのかもしれない。


ジェーンが戻って、結局彼女が地雷を処理する為に、チキとニノを中間地帯から出す。ニノは梯子を使って中間地帯から出ると、そこにはチキがニノから遠ざける為においた銃がありました。それが2人を撃ち合うきっかけにはなってしまったのだけど。その後も国連軍はジェーンが中間地帯に出向いた事を大義名分として、ツエラの地雷を撤去せず、撤退の命令が出ます。ジェーンもまた戦争の矛盾に疑問を持ちながらそこを去る。最後に残されたツエラは近づいてくる国連軍なのか、セルビア軍なのか、戦闘機をせめてもの道連れにか、最後の最後で置き上がり、地雷が爆発・・・。舞台の暗転と起動した地雷の爆音が響き渡る・・・。


これで終劇となるわけですが。。とにかく涙が止まりませんでした。終わった後に頭が痛くなるくらい(苦笑)心のどこかで『みんな助かるといいな』と甘い考えを持っていた私が、やはり戦争に無知なんだと思い知らされた結末でした。こんな戦争が今もどこかで行われている。それでもTVなんかで「大変そうだな」「可哀想だな」ぐらいにしか考えられないくらい、非現実的な現実のお話。何かを考える舞台というより、やるせなさを感じさせられた舞台でした。そう考えられる時代と国に生まれた事を感謝すべきだし、普通の生活を送れる事をもっと大切にした方が良いのかもしれない。終わった後はなんとなく話すことも出来なくて、感想も何を書けば・・・って感じだったので、あらすじみたいになってますが、ご容赦を(苦笑)でも見に行ってよかったと心から思う、そんな舞台でした。